きろく

観劇とかゲームとか本の感想を書くブログ

『さよならを教えて』感想 ノベルゲームを作るのがうまい

DL siteのセールでずっと気になってたCRAFTWORKさよならを教えて ~comment te dire adieu~』が30%オフだったのでやってみた。
エロゲ史で有名でプレミア値がついてて『鬱ゲー』っていわれてることは知ってたけど、ほかはよくわからず…。

で、購入ページの商品説明をなんとなく見てたら

>ご注意
●現実と虚構の区別がつかない方
●生きているのが辛い方
●犯罪行為をする予定のある方
●何かにすがりたい方
●殺人癖のある方
※このソフトには精神的嫌悪感を与える内容が含まれています。
上記に該当する方は購入をご遠慮くださるよう、あらかじめお願い申し上げます。

って書いてあって「なんだこれは……」ってなった。

以下、ネタバレ全開なので注意↓

 

いや~~~~主人公が強すぎる(いろんな意味で)。

多分中盤で大半のプレイヤーが察することができそうだけど、概ね予想通りの真相だった。
ただ「他の女キャラたちは主人公の家族??」って予想は1人を除いて外れてた…主人公がとなえにやたらと母性を感じてたのはなんだったんだろう??

先日「一言でいうなら『統合失調症体験ゲーム』」って言ったけど、プレイ中は医療団体が作ったVH統合失調症の動画を見た時みたいな気持ちになった。
作中ではっきり病名は明言されてないけど、主人公のように生真面目、神経質、内気って性質を持つ人は統合失調症になりやすいって言われてるし多分症状的にもほぼ確定っぽい?
学校が妄想ってことは、主人公は病院内でおしっこ漏らしながら徘徊したり下半身丸出しで歩き回ったりしてたのかあ……。

そういえば、クリア後に主人公の顔が整ってることを知って目玉が飛び出た。
あんな顔面の男からこんな最悪な選択肢が飛び出たのか…。こんな最悪な選択肢、凌辱ゲーでも目にしないよ…。

睦月を除く妄想のヒロインたちは無機物や動物の擬人化ってだけじゃなくて、主人公が抱えたコンプレックスやトラウマの擬人化でもあるよね(特に御幸は作中で言われてるように主人公の分身レベル)。

異性への恐怖心、受験失敗のトラウマ、学歴コンプ、優秀なきょうだいへの劣等感、対人関係への苦手意識諸々、描かれてる主人公の悩みって一つや二つはわりと多くの人に当てはまる気がする。
(妄想の)舞台が学校で自分を教育実習生って思い込んでるのも、教職の両親からずっと教師になれって言われ続けたのに期待に応えられなかったコンプレックスからなのがつらい。

主人公は最後の最後でついに回復の兆しを見せたかと思いきや、今度は自分を病院のインターンと思い込むようになって、また妄想の生徒たちと再会しちゃうからタイトルは『さよならを教えて』なのかなあ。
本編の各ルート終盤で全員と「さよなら」をしても、結局はまた戻っちゃうから「さよなら」ができないというか。

主人公は睦月を『天使様』と思い込んでいて、同時に自分を『怪物』だと思ってるけど、睦月によって主人公は勇気を出してとなえにすべてを打ち明ける機会を逃した上に「他の人間に相談しようとしたから天使が怒って追ってきたんだ」とまで被害妄想をしてるんだよね。


主人公にとって本当に『怪物』だったのは睦月かもしれないと思うと、睦月が天使の羽と葉っぱの羽を生やしたパッケージイラストに納得した。

『鬱ゲー』として有名みたいだけど、自分は『(キャラが精神病を患ってる)鬱ゲー』ならともかく、『(プレイヤーが鬱っぽくなる)鬱ゲー』とはあまり思わなかったかも。
精神状態がかなり悪い人や主人公との共通点が多い人は引きずられて悪化しそうだけども…。
作中でとなえが言っていたように、主人公は真面目な性格ゆえに都合のいい妄想の世界に逃げずに妄想でも自分の欠点とかコンプレックスとちゃんと向き合って(しまって)いて、苦しんでるけどそれは偉いと思う。自分だったら都合のいい妄想の世界に逃げたい。

個人的に一番面白いな〜〜って思ったのは、ノベル『ゲーム』ならではの表現のうまさ。
終盤になると何回クリックしても数行分まったく同じ会話が延々と続いたり、選択肢がどんどん増えていって最終的に10個くらい全部同じになったり、今いる場所と背景グラが全部違ったりと小説とか映像じゃ表現できない怖さがよかった(下手したらプレイヤーからバグかミスと勘違いされそう)。
話が進むにつれてプレイヤーが選択した場所と違うところに行っちゃうし、どの選択肢を選んでも主人公は同じことを言い出す。どんどんプレイヤーの言うことを聞かなくなる。言うこときけ!!!!

あと、毎日同じことを繰り返しているのに、どんどん主人公や妄想の世界がおかしくなっていく気持ち悪さの表現が本当にすごい。ノベルゲームを作るのが本当にうまい。
たとえば毎日トイレに行くだけでも、どんどんおかしなことになっていくのがゾッとする。

9日目までは毎回「真っ白い便器を見つめている」って文章が続いてかろうじて平常だったのに、10日目に入るとこうなる。


EDもイントロ入ると同時に1枚絵がどんどん引きになって『学校』の全景がわかるところとか、途中で会話イベント入って最後の最後に突然曲が止まるところ(「先生!」の部分)とか、演出に感動した。
絶対プレイヤーに後味の悪い思いをさせてやるという気合を感じる。

自分的には『鬱ゲー』というより作中の世界の雰囲気を楽しむ『雰囲気ゲー』って印象が強かった。
主題歌の雰囲気とか最高すぎてiTunesで買ってからめっちゃヘビロテしてる。なんか曲の雰囲気にのまれてゲームプレイ中以上に憂鬱になってきた。
それにしてもゲームだから仕方ないとはいえ、となえの治療って医師として見事にやっちゃいけないことばっかやってるよね……。
このままだと主人公は一生「さよなら」できなさそう。